1969年公開、五社英雄監督の映画『人斬り』。
豪華キャストやダイナミックな殺陣など、見どころ満載なスケールの大きい時代劇大作ですね。
のみならず、この映画に出演した作家の三島由紀夫は、侍役で割腹シーンを演じています。
三島は映画の公開から一年余りのち、いわゆる『三島事件』で実際に割腹。
衝撃的な出来事として、当時の社会を驚かせました。
この映画はあの事件を知る上でも、資料的価値も高い重要な作品となっています。
ここでは、『人斬り』の基本情報、三島由紀夫の役どころや割腹シーンと実際の事件との関連、筆者が実際に観てみた感想、さらに作品を観る方法についても紹介していきます。
『人斬り』基本情報
- 1969(昭和44)年8月9日公開
- 上映時間140分
- 原作:司馬遼太郎『人斬り以蔵』
- 監督:五社英雄
- 脚本:橋本忍
- 音楽:佐藤勝
- 製作:フジテレビジョン+勝プロダクション
- 配給:大映
キャスト
- 岡田以蔵(土佐勤皇党の人斬り剣士):勝新太郎
- 武市半平太(土佐勤皇党の首領) :仲代達矢
- 田中新兵衛(薩摩藩の人斬り剣士) :三島由紀夫
- 坂本龍馬(元・土佐勤皇党の浪士) :石原裕次郎
- おみの(以蔵の情婦) :倍賞美津子
- その他出演:田中邦衛、山本圭、賀原夏子、萩本欽一&坂上二郎(コント55号)など
『人斬り』あらすじ
幕末、文久二年(1862)。
土佐国の田舎に暮らす岡田以蔵は、剣術に秀でたものがありながら、うだつの上がらない日々を過ごしていた。
以蔵の師・土佐勤皇党の武市半平太は、政敵の土佐藩執政・吉田東洋の暗殺を企図。
まだ人を斬ったことの無い以蔵に、隠れて真剣白刃のやり取りを見届けるよう命じる。
人の殺し合いを身に焼き付けた以蔵。
その年の夏、土佐勤皇党は京都へ上洛した。
武市の命ずるまま、様々な謀略の実行役として、次々と人を斬っていく以蔵。
やがて「人斬り以蔵」として人々から恐れられ、自身も土佐勤皇党の繁栄の立役者としての自負が、驕慢な態度やふるまいとして現れるようになる。
そこへ、以蔵の幼なじみで、現在は土佐勤皇党を離れた坂本龍馬が現れる。
龍馬は武市の意のままに操られる以蔵を案じ、人斬りを辞めるよう忠告するが、以蔵は耳を貸さない。
以蔵の暴れぶりは天皇にも知られることになり、武市は次の近江国で企図する襲撃から、以蔵を外すことにした。
しかし以蔵は、自分が計画から外されたことを知り憤慨。襲撃場所へ駆け出して行くのだった。
武市との関係にも暗雲が漂いはじめる——。
田中新兵衛役・三島由紀夫
三島は、薩摩藩の「人斬り剣士」として名高い、田中新兵衛役として登場。
以蔵とは酒を酌み交わす友となりますが・・以蔵も関わることになったある謀略によって、不遇な運命をたどっていきます。
三島は、このおよそ9年半前に主演した映画『からっ風野郎』では、自他ともに大根役者ぶりを認められる悪評でした。
しかしこの『人斬り』においては、人を斬るテロリストとしての目や表情、剣道五段の実力を発揮した剣さばきなどの振る舞いなど、高い評価を受けています。
そして、圧巻の切腹シーン。
弁解しようともせず瞬時のうちに「行動」した、その誠実・その潔さ・その美は、演技を超えた三島自身の生き方が表現されたものだったかも知れません。
映画公開から約1年3か月後の、1970(昭和45)年11月25日。
辞世の句、
「益荒男が たばさむ太刀の 鞘鳴りに 幾とせ耐へて 今日の初霜」
「散るをいとふ 世にも人にも 先駆けて 散るこそ花と 吹く小夜嵐」
を詠み、自ら命を絶った三島。
あの事件における、人によっては無駄とも滑稽とも評されるその死も、この映画で描かれている田中新兵衛の最期と相通じるものがあるのではないでしょうか。
振り返ってみると、『人斬り』および演じた田中新兵衛は、三島の死と美をめぐる生き方と宿命的に重なり合ってしまい、脇役ではあるものの「三島由紀夫を描いた映画」としての大きな側面を持っているように思います。
『人斬り』感想
TVドラマでは少々観たこともあるけど、映画でまともに時代劇を観たのは初めてかも。
勝新太郎・仲代達矢・石原裕次郎といった、映画やドラマを普段見ない人でも知ってるようなビッグネームの共演。
歴史上の人物で人気の高い坂本龍馬役は、石原裕次郎。
龍馬役と言ってもこの作品では脇役だけど、数々の主演で鳴らす石原裕次郎が務めているのも、ある意味珍しいのかも?
のっけからの殺陣シーンが、非常に力が入っててダイナミックで見応えがある。
その後も繰り返し、人が斬り殺され、血しぶきが上がる流血場面も多々見られる。
残虐シーンが苦手な自分でもなんとか観ていられる範囲で迫力あるけど、今はここまでの表現はあまり見かけないしアウトかも知れない。
主役を務めた勝新太郎も、もちろん名前は知っていたがまともに観るのは初めて。
いかにも頭が悪そうな、がさつで大雑把で間抜けで、でも直情的でユーモラスで憎めない役柄を、たまにちょっと大げさにも見えるようなアクションで演じている。
中盤、山や田舎や夕陽の風景の中をカッコ悪くもひたすら疾走する所は、爽快な場面だった。
豪放磊落な反面、繊細な面もある以蔵。
盲目的に忠義を尽くすようになった武市との、そもそもの絆が深まる場面は触れられていない。
だが、現代にも通じる組織の中で使われて生きていく人間の苦しみが、後半よく描かれていた。
自分も同じ組織で長く居続けることができず、会社勤めが嫌でしょうがないが、今後も会社組織に頼らない生き方を模索していこう。
とにかく、主役の勝新太郎の顔も含めて、これぞ昭和の時代劇といった感じの躍動感ある濃い俳優たちと、迫力あるアクションシーンが出色。
半世紀前の映画ながら、今の時代では衰えてしまったような力が、生き生きとみなぎった魅力的な作品。
『人斬り』を観る方法は?
『人斬り』は、『Amazonプライムビデオ』で視聴可能。
レンタル料金300~400円(画質による)で観られます。
まとめ
以上、映画『人斬り』のあらすじや基本情報、三島由紀夫の役どころ、筆者が観た感想、作品を観る方法についても紹介してきました。
血なまぐさい場面もあるけど、主演の勝新太郎のユーモラスさで中和されるし、昭和の代表的な時代劇を観たいという人にはオススメできる作品ですね。
またもちろん、三島について知りたい人は是非観るべきだと思います。