昭和という時代を駆け抜けた稀代の作家・三島由紀夫。
晩年は、自衛隊に体験入隊したり、日本の伝統を守る目的の民兵組織「楯の会」を結成。
天皇や社会に関する発言など、政治的な主張が目立つようになっていきました。
また、当時盛んだった学生運動についても数多く言及。
大学へ直接出向いて、学生と討論を戦わせました。
中でも、死の一年半前の1969(昭和44)年5月13日、東京大学駒場キャンパスで行われた「東大全共闘」との討論は有名です。
2020年3月、その時の貴重な映像が使われたドキュメンタリー映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』が公開されました。
ここでは、映画の基本情報や筆者が実際に観た感想、無料で観る方法についても紹介していきます。
『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』基本情報
- 公開日 :2020年3月20日
- 上映時間:108分
- 監督 :豊島圭介
- 音楽 :遠藤浩二
- 配給 :GAGA
出演
- 三島由紀夫(小説家・劇作家)
- 芥正彦(元東大全共闘・劇作家)
- 木村修(元東大全共闘)
- 橋爪大三郎(元東大全共闘・社会学者)
- 篠原裕(元楯の会)
- 宮沢章友(元楯の会)
- 原昭弘(元楯の会)
- 清水寛(元新潮社カメラマン)
- 小川邦雄(元TBS記者)
- 椎根和(元『平凡パンチ』編集者)
- 瀬戸内寂聴(作家)
- 平野啓一郎(作家)
- 内田樹(文学者)
- 小熊英二(社会学者)
- ナレーター:東出昌大
『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』イントロダクション
1969(昭和44)年5月13日、東京都目黒区の東大駒場キャンパスで行われた、作家・三島由紀夫と「東大全共闘」との討論会。
TBSが記録した映像に、当時現場にいた全共闘のメンバーや三島が立ち上げた民兵組織「楯の会」の面々、また三島と親交のあった人々や文化人へのインタビューを交えたドキュメンタリー映画。
「全共闘(全学共闘会議)」とは、バリケードやストライキなど武力を伴った当時の学生運動を起こす中で、各大学内で組織された連合体。
特に東大と日大の全共闘がよく知られ、この年の1月には東大本郷キャンパスの「安田講堂」を全共闘が占拠した「東大安田講堂事件」が起こっていた。
旧体制を変革するなら暴力も厭わないという、血気盛んな東大全共闘のメンバー。
対して、日本古来の伝統を重んじ、天皇を絶対者として行動する三島。
半世紀前、言葉が力を持ち人々の熱量も沸き立っていた時代の、貴重な討論の記録。
『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』感想
討論の中心が、形而上的・抽象的・哲学的・概念的であり、教養のない人が理解するには困難を擁する。
現在、こんな風にゴチゴチのイデオロギーに凝り固まった討論は、一般的なメディアのどこを探しても無さそう。
壇上にいる三島および、全共闘の学生たちが、当たり前のようにタバコをプカプカ吸いながら話している。
ぎゅうぎゅう詰めで討論を聴いている人たちに対して失礼だし、今では考えられない光景。
現在でも存命で、劇作家として活躍しているという、全共闘きっての論客とされる芥正彦氏。
自分の赤ん坊(娘)を肩車して、討論の途中から登場。
「馬鹿野郎」などと暴言を吐き、三島の言葉をさえぎって持論を主張。
そして自分が思う存分話した後は、討論の途中でしれっと退席していった。
新たに撮られたインタビューでは、当時と変わらず破天荒さと怒気を含んだ口調で持論を展開し、三島を「あいつ」呼ばわり。
傾聴すべき点はあるかも知れないが、何にせよ観ていて腹立たしさが先に立った。
それでも三島は、時に「ですます口調」で芥氏の論にきちんと応え、語りかけた。
また、いざという時のために、腹巻に短刀と鉄扇をしのばせて赴いたという。
それでも壇上では、立場の違う学生を相手に時にユーモアも交えながら、作家らしく言葉を選びつつ、真摯に意見を戦わす様子が印象に残った。
その一方で三島は、秩序が大事でイデオロギーなどはどうでも良いという風潮を憂い、
「私は右だろうが左だろうが、暴力に反対したことは一度もない」
「合法的に人を殺すというのが好きじゃない」
と、非合法の暴力を肯定。
「私が行動を起こす時は、結局諸君と同じ、非合法でやるしかないんだ」
と、立場が正反対の全共闘とも、非合法での行動について共鳴する部分を吐露。
最終的には暴力を肯定しつつも、それまでは相手を認め、終始一貫してきわめて冷静に対話を続けた。
そして、「他のものは信じなくても、諸君の熱情は信じます」と、考えの相違は別として、全共闘の学生達をきちんと尊重する態度を示した。
国際的に名の知れた作家として、すでに世の中で確固たる地位を築き、あり余る富も名声も持っていた三島。
にも関わらず、エリートとは言え反体制の学生達の前に身一つで現れ、上から目線でもなく誠実に対応する姿勢に敬服した。
今の時代、著名な政治家や文化人で、危険を顧みずわざわざ時間を割き、ここまで熱意を持って若者に向き合う人物は中々いないのではないだろうか。
そして、
「非合法の決闘の思想で人を殺ればそれは殺人犯だから、お巡りさんに捕まらないうちに自決でも何でもして死にたい」
と、この討論から一年半後の、あの出来事を暗示するような発言もあった。
三島が没して半世紀。
彼が気持ち悪いと述べた、「秩序が大事で、イデオロギーなどどうでもいい」という風潮はさらに進んでいった。
そして、言い逃れや事なかれ主義がはびこる、経済的な繁栄はあっても中身は空疎な社会が、ますます閉塞感を増している。
今の世の中は暴力を完全否定しつつ、一方でネットでの誹謗中傷や陰湿ないじめなど、「目に見えない暴力」は巷にあふれている。
そして、誰も彼もがお互いを監視し合い足を引っ張り、異様にトラブルや非難を恐れ、個人の意見がかき消されてしまうような社会。
今後もこの国の社会、そしてそこに生きる私達は、このような癌的症状をさらに行き着くところまで悪化させ続けるのだろうか。
『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』を無料で観る方法は?
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(※本ページの情報は2021年4月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。)
まとめ
以上、『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』の詳しい情報や筆者が観てみた感想、無料で観る方法についても紹介してきました。
半世紀前の、言葉や社会運動などの行動が力を持ち、血気盛んだった時代。
一方、現在は色んな意味で便利で安全な社会であるものの、あまりに閉塞感に満ちた、冷たく窮屈な時代。
後戻りする訳にはいかないけど、あの頃の熱気に満ちた社会を再評価する意義は、あるかと思います。
そして、政府や国・組織の言いなりではなく、私たち一人ひとりが主権者として考え言葉を発し、行動する意識を持つことは大事ですね。